本の森/音の海

本と音楽についてのノート

佐々木閑「大乗仏教 ブッダの教えはどこへ向かうのか」

 

 

 

いやあ、面白かった。大乗仏教についてこんなに明快に解説した本はこれまで読んだことがなかった。

 

まずは釈迦のもともとの教えが「自分を救いの拠り所と考えた」ものに対し、大乗仏教では「外部の不思議な力を拠り所と考えた」と区別するところからスタート。そしてそのような違いが生じた理由について「理にかなってさえいれば、それは釈迦の教えと考えてよい」というアイデアが登場したからだと説いていく。

そして大乗仏教の目的は悟りを開いて「ブッダになること」というのだけど、ではどうすればそんなことができるのか。この本によると、それは「ブッダと出会い、それを崇めること、供養することがブッダになるための近道である」となる。しかし供養はともかく、ブッダに出会うなんてどうすればできるのか。この難問にどう答えを出したのかが「大乗仏教の面白さであり、真骨頂なのです」ということになる。

これを踏まえて主な経典の解説に進むのだが、ここからがこの本の読ませどころ。その例をざっとかいつまんでいこう。

 

1)〈空〉について

空とは、コンビニのポイントカードで貯まったポイントがコンビニだけではなく、他の目的にも利用できるように「善行によって得たエネルギーをブッダになるための力に振り向けることができる、より上位のシステム」

 

2)『般若経』と『法華経』の関係

自動車にたとえると『法華経』も「般若経」も同型のエンジンを積んでいる」が、「久遠実成」という考えを作り出したことにより、『法華経』のエンジンにはターボチャージャーが搭載された。

 

3)パラレルワールドの考えを導入した「浄土経」

「浄土経」では、なんとかブッダと今すぐ出会える方法はないものかと考えた末に「私たちが生きているこの世界とは別の場所に、無限の多世界が存在している」とまずはとらえることにした。

 

4)バーチャルはリアルであるととらえた華厳経

宇宙に存在する無限のブッダがお互いにつながっていると仮定すると、この世界に現れた一人のブッダを供養しただけで無限のブッダを供養したことになる。

 

他にもいろいろあるけれど、とりあえずここまで。本書では各経典の解説だけではなく、さらに大乗仏教の今後についても考察している。ここでの著者の考えには、個人的に異を唱えたい部分もあるのだけど、それはもっと考えていきたい。ともあれ、刺激的な読書体験だった。