本の森/音の海

本と音楽についてのノート

細野晴臣「銀河鉄道の夜 特別版」

 

銀河鉄道の夜・特別版

銀河鉄道の夜・特別版

YMO散開後のメンバー3人のソロ活動でもっとも“テクノ”を感じさせたのが細野さんだったのは当時の自分には意外でした。
教授の「音楽図鑑」や幸宏さんの「薔薇色の明日」は今でも愛着のあるアルバムですが、夢中になってリピートしながらも、心の隅では「これはもうテクノとはいえないな」といくばくかの寂寥感がありました。
そうした中、新たにノンスタンダードとモナドの2つのレーベルを立ち上げた細野さんがリリースしたのが「SFX」。ここには、当時の自分が思い浮かべていたテクノ・ポップの進化系がありました。YMO活動時には今ひとつ立ち位置がわからなかった細野さんが、真に自分にとって大切な音楽家となったのはここからだったと今になって思います。
そして85年にリリースされたのが、今回取り上げたアニメ「銀河鉄道の夜」のサントラ盤。猫をキャラクターにして宮沢賢治の世界を表現することに成功したアニメ映画でしたが、細野さんの音楽もまた素晴らしいものでした。ノンスタンダードでのテクノ路線とモナドでのアンビエントの要素が融合されたそのサウンドは、この時期の細野さんの代表作といえるでしょう。
昨年の暮れに届けられた「特別版」は、細野さんが選んだ未収録音源や未発表音源を加えた2枚組です。新たなリマスタリングによって深みを増した音像は新たな魅力を示してくれれています。ブックレットには鈴木総一朗さんによる解説と関係者へのインタビューが収録されていますが、ここで強調されているのが、本作の制作において重要な役割を果たしたコシミハルさんによる楽曲の素晴らしさ。当時の細野さんはドヴォルザークスメタナなど、東欧のクラシックをよく聴いていたそうですが、そうしたヨーロッパ志向とコシさんの音楽性がよく親和したのが本作の味わいを増しているといえるでしょう。
映画音楽の作曲家としての細野さんは「万引き家族」の世界的な成功で改めて注目を集めましたが、その原点のなるのがこの作品。細野さんのキャリアの中でもひとつの節目となる重要作と思います。